2019年7月14日日曜日

読書・「失われた時を求めて」12消え去ったアルベルチーヌ プルースト作 吉川一義訳 岩波文庫




 今年の梅雨はとても長く、肌寒いような天気が続いています。この辺りに自生しているヤマホタルブクロも例年より開花が遅く、長く咲いているように思います。
 


 「失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ」プルースト作・吉川一義訳・                       岩波文庫を、読み終えました。

 この巻では、話者が いっしょに暮らしていた恋人のアルベルチーヌの突然の失踪と、それに続く彼女の事故死。失踪前には、別れようとさえ思っていたアルベルチーヌを、話者は、実は本当は愛していたのだと知るのでした。
 そして、母との念願だったヴェネチィアへの旅が、語られています。



 話者は、アルベルチーヌの失踪と事故死の後、喪失の痛手はもちろんですが、彼女が同性愛だったのではという疑惑と嫉妬にもかられるのです。その恋愛感情の推移と機微が、プルーストらしい筆致で心理分析し、数百ページにもわたり、繊細に書かれています。でも、やがて次第に、時がそれを癒してくれるのでした。
 



 プルーストは、実際の人生でも、同居していたアゴスチネリという美貌の運転手の愛人の失踪と事故死を経験しています。このことは物語の中のアルベルチーヌの失踪や事故死にも、取り入れられているようで、この巻の後ろの付録に、アゴスチネリに送ったプルーストの興味深い手紙が、載せられています。



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「人は、たったひとつの微笑みやまなざしや肩などに惹かれて恋に陥る。それだけで充分なのだ。」
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 これは、254pに書かれている文の引用ですが、わたしがこの巻の中で一番惹かれた文章です。

 話者もアルベルチーヌの微笑みやまなざしに惹かれて恋に落ちたのでしょう。そしてそれだけでもう、充分なのだと言っています。




 この巻でも、プルーストの心理分析は見事だと思いました。アルベルチーヌとの恋の想い出の抒情的な散文もあちこちにちりばめてあり、わたしの好きなところでした。
 


 
 
 
 

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