2019年1月9日水曜日

プルーストの飛行機・・




 冬晴れの日に散歩していると、真っ青な空に浮かぶ白い雲が、とてもメルヘンチックで素敵です。




 空を見上げていると、突然、飛行機が視界に入ってきました。




 あわてて、カメラを向けたのですが、とても早く飛んで行ってしまいこのように小さな機影になってしまいました。
 そういえば、「『失われた時を求めて』9「ソドムとゴモラⅡ」をいま、読んでいるのですが、飛行機を見たときのエピソードが出てきます。




 当時はまだ飛行機は珍しかったようで、主人公が飛行機の姿を見た時にはとても感動して涙まで流していたというのです。
  プルーストが飛行機が飛ぶのを見ただけで、涙を流すほど感動したということが、少し不思議に思えたので調べてみると、彼の恋人だったアルフレッド・アゴスチネリの飛行機事故死という悲劇があったようです。

 「プルーストと過ごす夏」という本の中で、ジャン=イヴ・タディエも、プルーストは、彼の恋人アゴスチネリの飛行機の事故死というのを念頭に置いて、この部分を書いていたのではと指摘していました。




 「『失われた時を求めて』9 ソドムとゴモラⅡ」 には、同性愛の話しが出てくるのですが、プルースト自身もそうであったと言われています。彼の恋人のアルフレッド・アゴスチネリの飛行機での事故死ということが、ジャン=イヴ・タディエの指摘のように、この飛行機の挿話となっていたのかもしれませんね。
 少し長いのですが引用してみます。



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突然、わたしの馬は後ろ足で立ちあがった。なにか異様な音を聞いたのである。私はなんとか馬を鎮めて振り落とされまいとしたが、やおらその音がしたと思われるほうへ涙でうるんだ目をあげると、私から五十メートルほど上方の陽光のなか、きらきら光る鋼鉄の大きなふたつの翼に挟まれて運ばれてゆくものが見え、その判然としないものは私には人間のすがたかと思われた。私は、はじめて半神と出会ったときのギリシャ人と同じように感動していた。私は涙まで流していた。その音が頭上から聞こえてくるからにはーー当時、飛行機はまだ珍しかったーー私がはじめて見ようとしているのは飛行機なのだと考えただけで、もう泣き出しそうになったからである。新聞を読んでいて感動的なことばが出てくるのを予感するときと同じで、涙がどっと溢れるには飛行機のすがたを見るのを待つだけでよかったのだ。その間も飛行士はどちらへ進むべきか迷っているように見えた。その飛行士の前方にはーー慣習が私を囚われの身としなかったらわたしの前方にもーー空間における、いや人生における、あらゆる道が開かれているように感じられた。飛行士はさらに遠くへ進み、しばらく海のうえを滑空したあと、いきなり意を決すると、なにやら重力とは反対の引力にでも従うかのように、まるで祖国へでも戻るといった風情で、金色(こんじき)の両の翼を軽やかに翻してまっすぐ空のほうへ突きすすんだ。
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 引用・「失われた時を求めて」9ソドムとゴモラⅡ 吉川一義訳 岩波文庫399p
                                   401p
   


この部分を、改めて読み直してみると、飛行機に特別な思い入れを寄せるプルーストの気持ちが、痛いほどにわたしにも感じとることが出来ました・・。

 冬の青空に、銀色の翼を輝かせながら飛んでいく飛行機は、わたしにとっては、夢を運んでいくようにも見えたのですが・・。

 
 






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