2024年3月25日月曜日

読書・「正岡子規」ドナルド・キーン著 角地幸男訳 新潮社

 

 3月も半ばを過ぎ、だいぶ春めいてきたのですが、まだまだ雪が降る寒い日もあります。先日の雪が残る晴れた日に写したヤマユリの実のドライフラワーです。雪をバックにすると、すてきに写すことができました。



 
 ドナルド・キーンさんが書かれた「正岡子規」を再読しました。
 
 いつもさすがキーンさんと思うのは、子規の英語力についての評価でした。子規は自分に英語力がなかったと繰り返し言っていたそうですが、キーンさんは第一高等中学校での子規の英語の答案を読み、「子規の英語力は決して馬鹿にしたものではなかった」と、書かれています。

 子規の書いた英文「Baseo as a Poet(詩人としての芭蕉)」の中で、子規はあの有名な芭蕉の俳句「古池や蛙飛び込む水の音」を、こんな風に訳していたそうです。

       The old mere!
                     A frog jumping in,
                     The sound of water.



 子規が亡くなったときには、英語の原書の蔵書として、ミルトン、バイロン、ワーズワースなどの詩の本があり、漱石への手紙には特に感動した英語の詩の引用もしていたとか・・。

 また子規のベースボール好きは有名ですが、キーンさんの推測として大学予備門の友達からこのゲームを教えてもらい、そのあと河東碧梧桐に教えたのではと書かれています。

 子規はベースボール用語の翻訳までし、そのいくつかは現在でもまだ使われているものもあるということですので、驚きました。

 以前に上野公園内にある正岡子規記念球場で見たことのある野球の句碑が、思い出されます。

     ♪春風やまりを投げたる草の原   子規



  
 キーンさんはいまや俳句は、日本のみではなく、アメリカの多くの学校でも教えられていると書かれていますが、そういえばわたしもロンドンに住んでいたころ、知人の英国人に「俳句を作ってみたけれど、どうかしら?」と聞かれたことがあるのを思い出しました。



 
 このように欧米にまで俳句が広まったのは、日本の伝統文化が明治維新後、危機的状況になっていたころ、「ホトトギス」の創刊や「写生」という方法で俳句と短歌を掘り起こして国民的文芸にまで高めた子規の功績をこの評伝で再確認したのでした。

 子規が死の前日に作ったという俳句です。

♪糸瓜(へちま)咲て 痰のつまりし 仏かな     子規

 子規はユーモアのある俳句も大分作っていますが、この辞世になってしまった句も、自分の姿を諧謔的にみている彼の視点が感じられました。享年は三十五歳だったとか・・。