失われた時を求めてには、いろいろの花が出てきますが、そのひとつに「ヤグルマギク」があります。話者のあこがれのゲルマント侯爵夫人の被っていたカノティエという帽子の飾りにつけられていたのが、ブルーのヤグルマギクなのでした。
ヤグルマギクは、ピンクや白もあるのですが、わたしは、ブルーのヤグルマギクが子供のころからいちばん好きでしたが、この本に出てくるのもブルーです。
いま、吉川一義さん訳の「失われた時を求めて」6ゲルマントのほうⅡを読んでいるのですが、この本の前半に、話者が憧れていたゲルマント侯爵夫人に、初めて身近に会う場面が出てきます。
それは、ヴィルパリジ侯爵夫人のサロンでしたが、話者がゲルマント侯爵夫人の魅惑の虜のひとつになっていたのは、「ブルーの瞳」だったとのこと・・。
その瞳のことを、プルーストはこんな風に描いています。
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その目はフランスの午後の青い空をまるで画に描いたように映し出して広々と晴れわたり、たとえきらきら輝いていないときでも明るい光をたたえていた。
・-・-・-・-・ 引用71p
そのようなブルーの目をしたゲルマント侯爵夫人は、「青いシルクのスカート」をまとい、「ブルーのヤグルマギクの花を飾ったカノティエ」を被っていたのですが、話者はその帽子に飾った「ブルーのヤグルマギク」の花から、こんなことを連想するのでした。
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その花で私が想いおこしたのは、よくその花を摘んだコンブレーの畑やタンソンヴィルの生垣ぞいに射していた遠い昔の日の光ではなく、さきほどゲルマント夫人がラ・ペ通りを突っ切ってきたとき、その通りにただよっていた黄昏(たそがれ)どきの匂いと埃(ほこり)である。
・-・-・-・-・ 引用73p
彼が、ヤグルマギクから連想したのは、「彼女がさきほど、横切ってきた通りのたそがれ時の匂いとほこり」だったというのですが、読んでいるこちらにまで匂いとほこりが感じられるようでした。
ところで、さきほどのゲルマント侯爵夫人の姿には、「ブルーの瞳」と、「ブルーの絹のスカート」、そして「ブルーのヤグルマギクの花を飾ったカノティエ」と、ブルーが3つも出てきます。
ブルーといえば、フランス国旗の色の一つでもあります。
また、中世の頃は、聖母マリアの色、フランス王家の紋章の地の色(ロイヤルブルー)でもあり、そしてフランスの野に咲くヤグルマギクの色でもあるのです・・・。
それにヤグルマギクは話者にとっては、コンブレーで咲いていたのを摘んだこともある思い出の花なのです。
話者があこがれていたゲルマント侯爵夫人との出会いの場面で、彼女をこの様なブルーで統一した装いにさせたのは、プルーストの単なるおしゃれごころなのか、それとも何か特別な意味があるのか、ヤグルマギクを見る度に楽しい考えを、めぐらせてしまうのでした・・。
ヤグルマギクは、また(「失われた時を求めて」4の166p)にも出てきましたので、引用してみます。
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ときに馬車が耕地のあいだの坂道をのぼってゆくとき、両側の畑の実在を一層確信させてくれ、昔の巨匠たちが署名代わりに画のなかに描いた小さい貴重な花のように畑が本物だという証拠を示してくれたのは、コンブレーで見かけたのとそっくりのヤグルマギクで、ためらいがちに私たちの馬車を追ってくる。ほどなくして馬はそれらを遠くひき離してしまうか、しばらく進むと、べつの一輪が目にとまる。行く手の草むらに青い星形をかざして私たちを待ち受けていたのである。大胆にも道ばたにまで出てきて腰をおろすのがひとりならずいて、目の前には、人慣れた花たちが私の遠い想い出とともに一大星雲を形づくった。
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引用 「失われた時を求めて」4花咲く乙女たちのかげにⅡ 166p
ヤグルマギクは、草むらに「青い星の形」で、わたしたちを待ち受けており、人慣れた花たちが私の「遠い想い出とともに一大星雲を形づくっていた」という表現には、さすがにプルーストと、感じ入ったのでした・・。
このように本の中にたびたび出てくる「ヤグルマギク」ですが、プルーストの愛した花のひとつだったのかもしれないと、思ったのでした・・。
プルーストが愛したヤグルマギクは、フランスの田舎の大地に、しっかりと根をおろして咲いている、ブルーの星の形をした愛すべき花だったのかもしれません。
※上のヤグルマギクの画は、「プルーストの花園」という下記の本の39pからの引用です。
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