2023年7月26日水曜日

読書・「音楽の旅・絵の旅」吉田秀和著・ちくま文庫  【わたしの音楽体験・・・】

 

  今年はヤマユリの開花が早いようです。この写真は、7月13日の散歩のときに見たヤマユリです。今日は26日ですが、猛暑の中、まだまだ元気にあちこちで咲いています。



 牧野富太郎さんの「植物知識」という本に、ヤマユリの話が書かれていました。牧野さんによればヤマユリは、「関東諸国に野生し、食用として上乗(じょうじょう)なもので、古(いにしえ)より、料理ユリという名がある」とのこと。また「ヤマユリという名前は、なんとなく土臭い感じがして上品ではない。「ヨシノユリ」か「リョウリユリ」と呼んだほうがいいのでは」とも書かれているのですが、彼の独特の個性が感じられました・・。

   



 吉田秀和さんの著書の「音楽の旅・絵の旅」は、友人に教えていただいた本です。ネットで調べたところ後半は「音楽の光と翳」というすでに
持っている本と重複するのですが、前半の吉田さんのバイロイト経験を読みたいと思い購入しました。

 わたしにとってバイロイトは、訪ねたこともあるなつかしい場所で、ワーグナーの曲は、わたしの強烈な音楽体験をしたことがある思い出の音楽でもあるからです。その音楽体験とはアムステルダムでのこと。曲はコンセルトヘボウ管弦楽団が演奏した「タンホイザー序曲」でした。指揮はリッカルド・シャイー。曲がはじまりしばらくすると体が硬直し、涙まで出てきたのでした・・。

 それは多分、いま考えてみると、ヴァーグナーの曲の魔力のようなものだったのかもしれません。「もしも知識がまったくないままにヴァーグナーの作品が聴けたなら、どんなに幸運なことだろう。」と堀内修さんが「ワーグナー」という本に書かれているのですが、わたしもその幸運なひとりだったようです!




 吉田さんがバイロイトでの「ニーベルングの指環」四部作の音楽から
感じとられたのは、「人生の芸術化」だったとのこと・・。 

 吉田さんは「芸術とは何だろうか?と思う。」というつぶやきからはじめられています。ルノワールは人生は辛いものだから、人生とは別の美しいものを芸術は創るという姿勢、そしてマラルメやボードレールも然り・・・。

 でもヴァーグナーの思想はそういうものではなく、「人生全体の芸術化」だったのだと断定なさっています。吉田さんらしいヴァーグナー論だと思ったのですが、プルーストにも通じるものがあるようにも思いました。







   


2023年7月3日月曜日

読書・「定家明月記私抄 続篇」堀田善衛著 ちくま学芸文庫 



  ホタルブクロが咲き始めました。今年は花が咲くのが早いようで、梅雨空のもとで、ピンクに近いうすむらさきのランプシェードのような形の花を咲かせています。いつもこの花を見るたびに、ホタルを入れてみたくなるのはわたしだけでしょうか・・。




 定家明月記私抄に続いて続編を読みました。今回は前篇ほどにはわくわくしなかったのですが、堀田さんはやはり丁寧にご自分の解釈もいれ、明
月記を読まれています。

 前篇でもそうだったのですが、やはり続篇でも定家の生きた時代というものを、深く考えさせられてしまいました。

  堀田さんは、続篇の序で日本と西欧の13世紀初めの頃の比較文化論的なものを書かれているのですが、宗教や政治・音楽などは、相違点よりもむしろ似ている点の方が多いと言われているのは、バルセローナに長年住まわれていた堀田さんならではの見解かなとおもしろく感じました。




 「定家明月記私抄」と、「定家明月記私抄 続篇」の2冊を読んで一番印象深く思ったのは、定家の和歌が世界的レベルの詩であるという堀田さんの見識でした。

 定家の和歌は、新古今和歌集や塚本邦雄さんの著書の「定家百首」など数冊で馴染んでいたのですが、下記のこの韻歌百二十八首中のものは、知りませんでした。堀田さんが絶賛なさった定家のこの和歌はしばらく、心に残りそうです。

 雲さえて峯の初雪降りぬれば有明のほかに月ぞ残れる・・・・・

 そして、この和歌の堀田さんの解釈もすばらしく彼も詩人なのだと、しみじみと思いました・・・