2022年7月13日水曜日

読書・「人間の土地」 サン=テグジュペリ 堀口大學訳 新潮文庫


  

 散歩道のあちこちで、うすいピンク色のホタルブクロが、咲いているのを見かけます。ちょうちん袖のような形でかわいらしく、ホタルを中に入れたらすてきだろうなあといつも思ってしまいます。



 
 サン=テグジュペリの「人間の土地」は好きで、ときどき忘れたころに読むのですが、読むたびに彼の飛行機の飛行士という職業を通して得た人生観が、見事だなあといつも感心してしまいます。

 サン=テグジュペリが現役で飛行士をしていた頃は、まだまだ操縦も飛行機自体も初期のころで、さまざまな困難があり、その危険にもかかわらず、郵便配達の飛行士として、活躍していたのは、空を飛ぶという魔力と魅力にとりつかれていたからなのかなあと想像してしまいます。

 


 彼がアルゼンチンでの最初の夜間飛行の時に見たのは、星のように大地のあちこちに輝く家々のともしびだったとのこと。

 そしてそのひとつひとつのともしびには、それぞれの人間の営みがあり、人間のこころの奇跡があるとまで書いていますが、わたしのいちばん好きなところです。

 「人間の土地」には、8つの章があってエピソードが書いてあるのですが、それぞれのどこかに、あのサン=テグジュペリの詩人や人生の哲学者を思わせるような言葉が、星のようにちりばめられていて、胸を打ちます。



 ☆人は、困難のまっ只中にいても、のどがかわき、おなかがすく。クロワッサンとコーヒーのあのすがすがしい朝の食事を夢想する・・。そして、そのすてきな朝食をぼくらに与えてくれるのは、地球という星だけなのだ・・。

 ☆サン=テグジュペリの友ギヨメ君の壮絶な生き方から、「人間であるということは、責任をもつこと」であるという達見・・。

 ☆サハラ砂漠にひとりで不時着したとき、家のありがたさを夢想し、家は、人の心の中に、夢を生み出してくれるとまで思うところ・・。

 ☆月あかりの下で、砂漠は桃色になる・・。この言葉は、想像するだけですてきな光景が目に浮かびますが、これは、星の王子さまでは、砂漠が美しいのは井戸をかくしているからという詩人の言葉になっていました。

 これらが、わたしの好きなところでしょうか。

 「星の王子さま」が、サン=テグジュペリの詩人としての本だとすれば、この「人間の土地」は、彼の人間を深く考える哲学者としての本のようにも思えました・・。





2022年7月9日土曜日

読書・「星の王子さま」サン=テグジュペリ 内藤濯訳・岩波書店

 

 数日前から日暮れになると、カナカナカナ~と鳴くヒグラシの声が聞こえるようになりました。ようやく季節外れの猛暑が過ぎたところですが、ヒグラシの声を聞くのは、涼しげでいいなあと思います。

 5月から咲き始めたミヤコワスレが、庭のすみでまだ咲いています。花期が長いのでびっくり。切り花にしても、楚々としてすてきですが、わたしは蕾から咲き始めのころのこんな風情が好きです。




 先日、サン=テグジュペリの「人間の土地」を読んでいましたら、友人からいま「星の王子さま」を読んでいるというメールがありました。サン=テグジュペリの本は大好きで、本箱には「夜間飛行」と「人間の土地」、それぞれ2冊づつ、そして「星の王子さま」がいつも並んでいます。

 さらに数日後、メル友から届いた手紙の便箋のイラストの絵が何と、星の王子さまと羊だったのです。こんな小さな偶然にうれしくなり、早速「星の王子さま」を、ほんとうに久しぶりに読んでみました・・。 

 わたしが持っている「星の王子さま」は、箱入りの岩波書店の愛蔵版で内藤濯訳です。本の最初に、サン=テグジュペリが、友人のレオン・ウェルトにあてた献辞が書かれているのですが、今回は気になり、彼について少し調べてみました。

 レオン・ウェルトはサン=テグジュペリよりも22歳年上で、ジャーナリスト、作家で美術評論家でもあったとのこと。二人は考え方もまるで違っていたのですが、深いところで絆が結ばれていた親友だったようです。




 この本が書かれた当時は第二次世界大戦中で、フランスも困難な時期であり、ユダヤ人でアナーキストだったレオン・ウェルトは、スイスに近いジュラ地方の村に潜んで住み、飢え
と寒さに苦しんでいたとのこと。 

 サン=テグジュペリは、星の王子さまを書くことで、苦境にいる大事な友人のレオン・ウェルトをなぐさめ勇気づけたいと思ったことがよくわかりました。

かなしいことなんかいつまでも続くもんじゃない。

           きみはどんなときでもぼくの友だちなんだから。

   きみの笑い声を聞くのは、砂漠の中で水を見つけるのと同じぐらいうれしいこと。

                 夜になったら、星をみあげて・・・。                                 

   星がうつくしいのは、目にみえない花があるから・・

           砂漠がうつくしいのは、どこかに井戸をかくしているから・・

       「いちばん大切なものは目にはみえない、こころでさがさなくては」

      これらはわたしのみつけたステキな言葉です。 

              

 この本を読むと、いつもやさしい気持ちになるのですが、サン=テグジュペリの友人への思いがいっぱい詰まっているので、読むひとのこころに深く伝わってくるのだと思いました。