散歩していると、道端に白い花が一面に落ちているところがあります。上を見ると真っ白のかわいい「エゴノキ」の花がこんなふうに咲いています。花が終わったあとは、みどりの実が連なって下がっているのを見るのも好きです。
江藤淳さんのエッセイ「犬と私」を読みました。江藤淳さんの本は、「決定版 夏目漱石」「リアリズムの源流」 「荷風散策 紅茶のあとさき」に続いて3冊目の読書でした。
このエッセイは、20代のころ、江藤さんがアパート暮らしを引き払って、念願の犬を飼える家に住んだところから始まります。子供のいないご夫妻は、ダーキイというコッカー・スパニエルを飼うのですが、犬好きの人にはすぐにわかるように、かけがえのない家族の一員となり、次第に犬馬鹿になられていく過程が書かれていて、共感を持って読みました。
犬の話のほかには、アメリカに住んだときのこと、帰国後のいろいろな話も書かれているのですが、わたしが好きなのは、思いがけず美しいものを見たとおっしゃる「朝焼け」というエッセイです。
それは、江藤さんが徹夜で仕事をなさったときに見た朝焼けで、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の舞台にでも出てくるような豪華で見事なシーンだったとのこと。
このような光景に出会えるのは、多分生涯に一度のことかもしれませんが、実はわたしも同じようなことがあったのを思い出しました。それはもう10年以上も前のことですが、アメリカから一時帰国なさっていた知人と、わが家で徹夜で語り明かしたことがあったのです。
夜が明けるころ、ちょうど山の端がすばらしい朝焼けに染まり、パバロッティの歌うオペラのアリアとともに朝日がゆっくりと昇っていったのでした。あの光景は、いまでも忘れられません。
江藤さんは、見事な朝焼けを見ることができたのは、徹夜での仕事のおかげと書かれていますが、わたしの場合は、知人のおかげかもしれません。人生のすてきな思い出をひとつ、わたしに思い出させてくれたエピソードでした。
この本を出版した三月書房について、江藤さんはこのように書かれています。この三月書房は、こころのこもったあたたかい随筆集のシリーズを、女性がおひとりで出版なさっておられること。そしてこのような心のこもった扱いを受けるに値するような本をこれからも、書いていきたいと・・。
これは、「読み返せる本」というタイトルの中で言われているのですが、わたしには江藤さんの評論家としてのマニフェストのようにも思えました。
さっと、軽く読めるエッセイですが、江藤淳さんの意外な深い一面をのぞかせてくれる本でもありました・・。