「ムッソリーニとお茶を」は、わたしの大好きな映画です。この映画の監督のフランコ・ゼッフィレッリのことを知るようになったのは、「永遠のマリア・カラス」を、銀座の映画館に観に行ったときのことでした。
行列に並んでいると、ゼッフィレッリ映画のファンだとおっしゃるすてきなおばさまから、「もしマリア・カラスや、ココ・シャネル、そしてルキーノ・ヴィスコンティに興味がおありなら、是非彼の自伝を読むべき」と、教えていただいたのが、「ゼッフィレッリ自伝」でした。もちろん興味がありましたので、早速購入して読んだのですが、懐かしい思い出です。
この映画は、監督自身の人生がモデルになっていて、彼も脚本を書いています。
第二次世界大戦前からフィレンツェに住んでいたスコーピオーネ(さそり族)と呼ばれていたイギリスの女性たちと、アメリカ人の女性をめぐる主人公ルカ(監督自身)の物語
になっています。
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ゼッフィレッリ監督は、フィレンツェで英国の服地を扱う仕事をしていた父と、ファッションデザイナーをしていた母との間に婚外子として生まれています。子供のころに父の秘書の英国女性から、英語を習っていたのですが、彼女からは英語だけではなく、シェークスピアの劇などに親しむ機会も与えてもらい、英国や英国文化に親しむようになったようです。
それにしてもこの映画には、英国の芸達者なおばさまたちがずらっと並んでいて見ごたえがあります。主人公ルカの子供のころの実直で凛とした家庭教師のメアリー・ウォレス役は、ジョーン・ブロウライト。個性的な芸術家のアラベラ役は、ジュディ・ディンチ。
鼻もちならない元大使夫人レディ・ヘスター・ランダム役は、マギー・スミスですが、彼女のあの声のトーンや表情までが演技とは思えないほどのぴったりのはまり役に見えました。そして主人公ルカが思いを寄せるアメリカ人の富豪のエルサ役は、シェールが個性的に演じていました。
スコーピオーネと呼ばれていたフィレンツェに住む英国のおばさまたちが、ウフィツィ美術館のボッティチェリの春(プリマヴェーラ)の前でしていたTEATIMEもそうですが、 彼女たちが、第二次世界大戦中に強制的に住むようにされていた「塔の街・サン・ジャミニャーノ」でのロケは、ゼッフィレッリ監督の本物志向のこだわりが感じられました。彼の本物志向は、ルキーノ・ヴィスコンティ監督からの影響もあるのかもしれませんね。。
サン・ジャミニャーノは、塔のたくさんある街ですが、フレスコ画もあるようです。それらの塔やフレスコ画を、英国のさそりのおばさまたちが、戦時中にドイツの破壊から身体をはって守るという後半のクライマックスのシーンは、わたしの好きな場面でした。
この映画を観た後に、久しぶりに「ゼッフィレッリ自伝」を読んでみました。彼は生前に自伝を書いていたのですが、今年の2019年の6月に96歳で亡くなられています。
その本の中でゼッフィレッリ監督は「フィレンツェ人がイギリスを愛するように、ミラノの社交界では常にフランスが憧れだった」と、書いているのですが、ミラノの社交界とは彼と親交のあった貴族のルキーノ・ヴィスコンティのことであり、イギリスを愛したフィレンツェ人とは、彼自身のことなのですね。
また、彼は自伝の中で、フィレンツェに住んでいた英国のスコーピオーネと呼ばれていたおばさまたちのことを、「彼女たちはわたしにとって故郷の古い石畳と同じぐらい貴重な存在だった」とも書いています。
この映画は、ゼッフィレッリ監督の、スコーピオーネと呼ばれていた英国人のおばさまたちへの限りない愛のメッセージだと思いました。
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