2022年8月16日火曜日

読書・「堀 辰雄集」堀多恵子編 彌生書房 (プルウストはフローラの作家・・・)


 コバギボウシ(小葉擬宝珠)が、あちこちで咲くようになりました。この花を見ると、いつも立原道造の詩を思い出します。「甘たるく感傷的な歌」という詩に、「まつむし草 桔梗 ぎぼうしゅ をみなへし」と、彼の好きな花をならべて、歌っているのですが、この「ぎぼうしゅ」とは、コバギボウシのことだと思います。 




 久しぶりに堀辰雄の随想「堀辰雄集」を読んでみました。この本は彌生書房の簡素でシックな装丁に惹かれて古本屋さんで購入したものです。

 堀辰雄の小説は、新潮文庫の「風立ちぬ・美しい村」「かげろふの日記・曠野」「幼年時代・晩夏」などのシリーズ本を数冊持っているのですが、再読するのはいつもこの彌生書房の「堀辰雄集」だけになってしまいました。

 この本は、小品、随筆、エッセイなどの作品を集めた随想集ですが、それぞれに違う味わいがありお気に入りの本です。

 「フローラとフォーナ」という題名のプルーストについての短い随想は、クレチウスは、作家をフローラ「植物」とフォーナ「動物」の2つに分け、プルウストをフローラに入れて論じているというあのフローラ論です。

 堀辰雄は、花のことはあまりよく知らないけれど、花好きで、小説の中で花を描くことも好きなので、自分もフローラ組かもしれないと書いていますが、彼の小説もプルウストの影響を受けていたようです。



 
 「木の十字架」というタイトルの随想は、わたしが青春のころに好きだった詩人の立原道造のことが書いてあり、好きなところです。立原道造は、亡くなる前の年の1938年の秋に、盛岡への一人旅をするのですが、そのときに堀さんにこんな手紙をよこしたそうです。

「あなたが自分のまはりに孤独をおいた日々はどんなに美しかったか、僕はそれを羨むことでいまを築いてゐるといったっていいくらゐです・・・・」75pからの引用

 立原道造が一人旅をしたという盛岡をわたしも訪ねたことがあるのですが、郊外の愛宕山で見た歌碑に刻まれた「アダジオ」という彼の詩があったのを思い出しました。「盛岡ノート」という盛岡の本屋さんで買った本に歌碑の拓本がはさんであったのを見つけましたので、引用してみます。

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 アダジオ              

 光あれと ねがふとき

 光はここにあった!

 鳥はふたたび私の空にかへり

 花はふたたび野にみちる

 私はなほこの気層にとどまることを好む

 空は澄み 雲は白く 風は聖らかだ

                  立原道造 「愛宕山の歌碑」より

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 堀辰雄は、立原道造という詩人に、とても影響を与えていたようです。恋人ができた立原道造が恋人を残して、ひとりで盛岡に旅をするなどというのは、リルケイアンとしての立原を見る思いだったと、堀辰雄は書いていますが、恋する人とあえて離れ耐えることを当時はリルケイアンと言っていたのだと知り思わず苦笑してしまったのですが・・。

 この「木の十字架」という題は、堀辰雄の結婚のお祝いにと立原道造が贈った教会の少年聖歌隊の歌のレコードの題名とのこと。堀辰雄の詩人立原道造への思い出の随想は、堀辰雄の結婚のころの思い出の随想でもあるようにも読めました。

 フローラの作家の堀辰雄のまわりには、やはり花を愛した立原道造のようなフローラの詩人がいたというのは、すてきなことだったと思いました。

  



 

 





 





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