2021年2月27日土曜日

読書・「とどめの一撃」ユルスナール作・岩崎力訳・岩波文庫

 

 この本を読み終えた後、名作の映画を観た後のような感動の余韻がしばらく残りました。もしかしてと思い調べてみますと、やはりあのドイツのシュレンドルフ監督で映画化されていました!!!

 シユレンドルフ監督の映画は、プルーストの「スワンの恋」のDVDを持っているのですが、「とどめの一撃」の映画化は、原作者のユルスナールも満足していたということなので、機会があれば是非観たい作品になりました。




 この小説の主人公は、エリック・フォン・ローモンで、語り手になっています。そして、エリックの友人のコンラート・ド・ルヴァル、コンラートの姉のソフィー・ド・ルヴァル、この3人が、第一次大戦とロシア革命の動乱期のバルト海地方の戦争の混乱を背景にしてひろげる愛と死の悲劇の物語です。

 



 エリックが、コンラートの最後の日々を思うとき、ニューヨークのフリック美術館で見たレンブラントの絵を思い浮かべるとのこと。PCでフリック美術館を検索してみると、レンブラントの描いた馬に乗っている青年騎手の絵がありました。ユルスナールはこの絵のことを、こんな風に書いています。

引用133p

「蒼ざめた馬にまたがり、背をのばしているあの若い男、神経質そうな、それでいて残忍ささえ感じさせる顔、馬が不幸を嗅ぎつけたかのようにおびえている荒涼たる風景、ドイツの古い版画よりはるかに生々しく感じられる死と狂気の女神ー」



 「死と狂気の女神」とは、ユルスナールのこの物語の悲劇の核心なのかもしれません。

 エリックの愛するコンラートは負傷して亡くなり、エリックへの愛を拒絶されたソフィーは、ヴェルシュベキに寝返るのですが、後にエリック側に拘束され、エリックに処刑してもらうことを願うのです。  

ユルスナールはこの作品で、登場人物の利害や打算のない精神の高貴さを描きたかったと前書きで言っていますが、たぶんそれは、彼女自身の生き方の指針でもあったのかもしれないと思いました。





  



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