2022年5月11日水曜日

読書・「源氏物語の世界」中村真一郎著・新潮選書 (プルーストとの接点としての文学)

 

  和室に飾ってある人形です。顔の表情が穏やかでやさしく、見るたびにこちらの気持ちを和ませてくれるのですが、いつも表情がほんの少し変わっているように見えるのが、不思議です。



 
 中村真一郎さんの書かれた「源氏物語の世界」を、読みました。3月にリモートで高遠弘美さんの最終講義をお聞きしたときに、お好きな作家として中村真一郎さんのお名前をあげていらしたので、興味を持って読んでみた本でした。

 「プルーストと、レディ・ムラサキはよく似ている。どちらもスノッブだ。」という言葉を以前に何かの本で読んだ記憶があるのですが、この本にもプルーストに言及しているところがありました。

 中村真一郎さんによれば、紫式部の書いた「源氏物語」とマルセル・プルーストの書いた「失われた時を求めて」は、作者と作品の関係で不思議なほどよく似ているとのことです。

 プルーストはフランスの前世紀末の上流階級を描いているが、彼自身は中産階級の出身であり、紫式部もまた、王朝時代の上流階級の世界を描いているが、彼女自身は中流の貴族であったこと。

 また、源氏物語がなぜ、世界に知られるようになったのかというわたしの長年の疑問にも答えがありました。

 源氏物語は英国人のアーサー・ウエリィによって見事な英語に翻訳されているのは知っていたのですが、当時の英国(1920年代)では、ブルームズベリーという知的なグループがあり、彼もそのメンバーだったというのは、知りませんでした。

 ブルームズベリーでは、当時、ジョイスの「ユリシーズ」やプルーストの「失われた時を求めて」と同じ等質の新文学として、ウエリィ訳の「源氏物語」が、タイムリーに紹介されたとのこと。

 ウエリィの源氏物語の翻訳の文体は、中村さんによれば、まさにブルームズベリー的で、知的で優雅で凝っていて、読者はプルーストを双子の姉妹かと思うほどだったとのことです。わたしもこの英訳は最初だけ読んだことがあり、簡潔で上品な英訳だと思っていたので、納得でした。

  また、その当時、西洋の文学界の新しい傾向として、人間の心の奥を描くこと、美に対する繊細な趣味、そして時間の形而上学的な重要さなどの3つが意識されはじめていたので、源氏物語はそれにもぴったりあてはまったと、中村さんは書かれています。

 ブルームズベリーといえば、メンバーのヴァージニア・ウルフの「灯台へ」や「ダロウエィ夫人」は以前に読んだことがあるのですが、彼女が「灯台へ」のあの独特の意識の流れの文体を書いたのは、1927年だったのですね。

 1920年代の英国のブルームズベリーのサロン・・・

 そこでのプルーストの「失われた時を求めて」や紫式部の「源氏物語」の紹介と議論・・・・・

  いろいろな楽しい想像を、わたしに思い起こさせてくれた読書でした。

 


 

 


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