2022年10月24日月曜日

読書・「失われた時を求めて」3 高遠弘美訳のプルースト・(フェードルのセリフの名訳)

 


  10月も半ばを過ぎ、木々の紅葉が始まりました。ガマズミの実も赤くなり、陽の光をあびると、つやつやと輝いてかわいらしく見えます。

 



 「失われた時を求めて」③ 第二篇「花咲く乙女たちのかげにⅠ」プルースト 
高遠弘美訳 光文社古典新訳文庫を読みました。
  主人公は、ラ・ベルマが演ずる「フェードル」(ラシーヌの悲劇)の中のセリフを、いつも心の中で唱えているほどなのですが、そのポスターがシャンゼリゼの広告塔に貼られているのを見てこころを躍らせるのでした。そのセリフとは・・

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高遠弘美訳では・・

「ここもとをいまにも発って、遠国(おんごく)へゆかれるとか」   

                      光文社古典新訳文庫 36pからの引用

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吉川一義訳

「急なご出立(しゅったつ)で、お別れしなければならないとか・・・」 

    「失われた時を求めて3花咲く乙女たちのかげにⅠ」 岩波文庫 46pから引用

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鈴木道彦訳 

「あわただしくも遥かな国へ、われらを離れてご出立とやら・・・」

「失われた時を求めて3 花咲く乙女たちのかげにⅠ」集英社ヘリテージシリーズ

                              40pからの引用

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井上究一郎訳

「急にはるかへお発ちになるとやら・・・」

「失われた時を求めて2第二篇 花咲く乙女たちのかげにⅠ」ちくま文庫

                               27pからの引用

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 フェードルの本は、岩波文庫から「フェードル アンドロマック」ラシーヌ作として、 渡辺守章訳 で出版されているのですが、渡辺守章さんはフェードルのセリフをこのように訳されていました。

渡辺守章訳

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「急なご出立(しゅったつ)で、お別れしなければならないとか。」

   ・-・-・-・-・-・        185pからの引用 

 吉川一義さんの訳とまったく同じでした。




 ラシーヌの悲劇「フェードル」は、1677年にブルゴーニュ座で初演されたという古い歴史があるのですが、日本でも2017年と2021年に大竹しのぶ・演出は栗山民也で上演されているようです。

 プルーストの「失われた時を求めて」に出てくる「フェードル」は、架空の女優のラ・ベルマが主役のフェードルを演じていて、主人公はマチネで観るのですが、最初は失望してしまうのでした。

   


                               

「フェードル」は、プルーストの時代には、実在した有名な女優のサラ・ベルナールが主役を演じているのですが、当たり役だったとか。この悲劇女優の試金石ともいわれる「フェードル」をサラ・ベルナールが初めて演じたのは、1874年で30歳だったとのことです。

 プルーストが生まれたのは、1871年ですから10代のころに、サラ・ベルナールの演じる「フェードル」を見た可能性があるのかもしれません・・。

 フランソワーズ・サガンの著書「サラ・ベルナール」によれば、サラは、グラモン家で1,2度プルーストにあったことがあるとのことですので、プルーストが「失われた時を求めて」の中で「フェードル」を書いたときに、架空の女優のラ・ベルマを登場させたのは、サラ・ベルナールのことが念頭にあったのかしらとも思ったのですが、どうなのでしょう・・。

 


 アンドレ・モーロアの「プルーストを求めて」という本に、プルーストが20歳のころの質問に対する答えが書いてあるのですが、架空の物語の中の好きな女主人公はという問いに、フェードルと最初に書き、それを消してベレニスにしたという記述がありました。

 フェードルは、やはりプルーストにとってセリフを暗記してしまうほどの、魅力ある演劇だったのかもしれません。


 高遠弘美さんが訳された「フェードル」のラ・ベルマのセリフ、

「ここもとをいまにも発って、遠国(おんごく)へゆかれるとか」は、  

             やはり古典劇にふさわしい重厚な名訳だと改めて思いました。










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