2023年2月20日月曜日

読書・「ゲーテさん こんばんは」池内紀著・集英社文庫

 


  冬晴れのまぶしい青空をバックに、裸木が黒いシルエットを作っているこんな光景は、いつ見ても、こころが洗われるようで大好きです。



 先日、友人から池内紀さんが書かれた「カント先生の散歩」という本をいただいて読んだのですが、「ゲーテさんこんばんは」という本もあることを知り、読んでみました。

 カントの哲学書はまったく読んだことがないのですが、ゲーテは詩集や格言集、小説などを読んでいて、馴染みがあったからです。 

 ゲーテは16歳でライプツィヒ大学に入学していますが、ギリシャ語、ラテン語、フランス語、イタリア語、英語はもとより、地理、歴史、博物学にくわしく、ピアノも弾け、絵、ダンス、乗馬、そして見事な筆跡と、何でもオールマイティによくできたとのこと。それらは、幼いころからの父親の教育のたまものであったということですから、恵まれた環境で育ったようです。

 


  ゲーテが25歳のときに書いた「若きウェルテルの悩み」は、いまでも古典として残っていますが、当時のベストセラーだったとか。先日偶然に、この映画を観たばかりでしたので、タイムリーでした。

 池内さんはこの手紙だけで書かれている物語は、いまのパソコン小説といったもので、不幸な恋というものは愛し合うふたりにとっては楽しく思い出せるという点で幸せであると考察なさっているのですが、わたしも同感でした。ゲーテ自身のようなウェルテルは、ロッテとの不幸な恋の結果、物語の中では自殺するのですが、ゲーテは83歳まで生きていました。

 ゲーテは、詩や小説などから「文豪」というイメージが強いのですが、文学だけではなく「色彩の研究」とか地質学、鉱山学、植物、骨の研究など、また文芸一般、ギリシャやローマの古典に造詣が深く、スケッチなども残していてマルチな才能を持っていたようです。

 そのかたわら、ワイマール公国の行政官や宰相もして活躍し、若いころは恋愛もいろいろとあり、40過ぎてからようやく結婚し、妻の死後は、70代で10代の女性に求婚して断られたというエピソードの持ち主でもあったとのこと。

 


 池内さんは、ゲーテはこのような4行詩を人生のモットーにしていたと文庫本あとがきで紹介なさっているので、引用してみます。

・-・-・-・-・-・                

       いかなるときも

       口論は禁物

       バカと争うと

       バカをみる 


       花が咲いたら

       頭にかざせ

       木の実は食べろ

       草木は欺さない


       「バラは詩にして リンゴはかじれ!」

・-・-・-・-・-・                  引用270pより

 一見、平易でユーモアさえ感じられるのですが、ゲーテらしい含蓄のある言葉だと思いました。

 池内さんは、「ファウスト」の翻訳を3年かけてなさったそうですが、ゲーテを知るためについにこのような伝記まで書かれてしまったとのこと・・。池内さんのお人柄も感じられ、ゲーテに少し親しみを感じることができた読書でした。

 



   

  ※池内さんは「すごいトシヨリBOOK」という本の最後に、「僕は、風のようにいなくなるといいな。」と書かれていますが、2019年に風のように去っていかれたようです・・。


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