3月のはじめ頃、那珂川河畔公園に咲いていたマンサクの花です。黄色いリボンのようなひらひらの花びらを見ると、いつも春がようやくめぐってきたと感じます。そして、この花が咲いているのを見ると、なぜか「しあわせの黄色いリボン」という言葉を思い出してしまうようになりました・・。
保苅瑞穂さんが書かれた「プルースト 読書の喜び」を久しぶりに再読してみました。このブログでは2020年8月9日に感想をアップしていますので2度目です。
保苅さんは、大学を定年退職なさった後、2008年から留学時代からの夢だったパリに住んでいらしたのですが、2021年7月10日にパリで84歳で亡くなられたと知りました。この本にもパリでプルーストゆかりの散歩道などを散策なさったことなどが書いてありましたし、念願のパリ暮らしは、お幸せな晩年だったのではと、想像しております。それにしても7月10日というのは、プルーストの誕生日ですので、同じ日に亡くなられたというのは 何か 保苅さんとプルーストとの不思議な縁のようなものを感じました・・・。
保苅瑞穂さんの本は、ちくま文庫の「プルースト評論選」の「Ⅰ文学篇」と「Ⅱ芸術篇」の2冊で編をなさっているのを読んだのがはじめてでしたが、今回手持ちのユリイカの「総特集=プルースト」を開いてみると「プルーストとマラルメ」という文を、寄稿なさってるのを見つけました。
保苅さんは、ユリイカの「プルーストとマラルメ」の中で、プルーストは、マラルメの詩との出会いで、詩的言語の自立性を明確に自覚したと書かれているのですが、この本「プルースト 読書の喜び」の中でもマラルメについてふれていらっしゃいます。
マラルメの詩「白鳥のソネ」の最初のところですが、わたしの好きな詩ですので引用させていただきます。
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清らかな、生気にあふれる、美しい今日が、
あのかたく凍った、忘れられた湖を
酔った翼の一撃で、今まさに打ち砕こうとする
・-・-・-・-・-・ 引用27p
いつ読んでもすてきなフレーズですが、この詩の中の「氷を打ち砕く」という表現を思わせる言葉について、保苅さんはこのように思考なさっています。
プルーストは若書きの「ジャン・サントゥイユ」の序文では「社交生活の氷から私を開放すると・・」と書いていたのが、保苅さんが留学時代パリの国立図書館で調べられた肉筆原稿では、「社交生活の氷から私を開放すると・・・」ではなく、最初には「社交生活の氷を打ち砕く」と書かれていたのを思い出されたのこと・・。
そして、このことから、プルーストの若書きの小説が未完だったのは、プルーストがまだ文体が十分に描ききれていないと考えたからなのではと、考察なさっています。
さらにこの「氷を打ち砕く」という言葉は、「見出された時」の最後の草稿にまで、書かれているのを発見なさっているのです。
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「重要なことはついに現実を認識すること、習慣の氷を打ち砕くこと、[・・・・・]氷の解けた海を再発見して、そこに到達することなのだ。」
・-・-・-・-・-・ 引用28p
今回、再読して印象に残ったのはマラルメの詩の言葉についてでしたが、どの章を読んでも長年のプルーストファンとしては豊饒なワインをゆっくりと味わうように、読書を楽しめる名著だと実感したのでした。
※ あとがきで保苅さんは、この本を編集者の岩永哲司さんという方に捧げていらっしゃるのですが、この本が出来たのはこういう方の支えがあったのだとも知りました。保苅さんは岩永さんのためにだけ書いたとも云われていますが、一人の人のためにということは、大事なことかもしれないと思いました。
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