2024年7月18日木曜日

読書・「須賀敦子の旅路」大竹昭子著・文春文庫

 

 オカトラノオという、虎のしっぽのような形の花があちこちに咲いています。真っ白い小さな星のようにかわいい花が、つぎつぎに、しっぽの先のほうにまで咲いていくのを見るのは楽しみで、日々のちいさなしあわせを感じます・・。



 

 大竹昭子さんが書かれた「須賀敦子の旅路」を、読みました。大竹さんの本は、「須賀敦子のヴェネチツィア」に続き2冊目です。

 この本は、大竹さんの写真入りの著書の「須賀敦子のミラノ」「須賀敦子のローマ」「須賀敦子のヴェネチツィア」の3冊の内容に加筆し、さらに東京篇を加えたもので、わたしのような須賀敦子ファンにとっては、読みごたえのある興味深い内容でした。

  以前に読んだことのある大竹昭子さんの「須賀敦子のヴェネチツィア」は、まだこの本が出版されて間もないころ、東京の書店で見つけ、写真にひかれて購入したのですが、すてきなのは写真だけではなく、文も須賀さんのような雰囲気で、読みやすかったのを覚えています。

 それ以来、大竹さんとはどのような方で、須賀さんとはどのようなかかわりをお持ちだったのかと、興味を持っていたのですが、この本を読んで、その疑問がとけました。

 大竹さんは、「ミラノ 霧の風景」を読まれて以後、すっかり須賀敦子さんの文学にほれ込んでいらっしゃり、ロングインタビューなどを通じて、交流もおありだったとのことでした。




 大竹さんの文も、須賀さんと同様に美しくて読みやすく、ミラノ・ヴェネチツィア・ローマ・そして東京と、須賀さんの人生と作品とのかかわりも、丁寧にたどられていて、上質の須賀敦子論になっていると思いました。

 ロングインタビューを含む東京篇は、この本の白眉で、須賀敦子さんを深く知ることができるエピソードなども多く、特に面白いと思ったのは、須賀さんは「インチキ」という言葉をよく使われたとのこと・・。

「インチキな文章」「インチキな人間」「インチキな生き方」などなど・・。 

 そして、「書くことや、生きることにおいてインチキをしないこと」というのは、大竹さんが、須賀さんから教えていただいたことで、もっとも大切なことだったのだ、とか・・。

 インチキをしないということは、自分に正直に生きるということですので、それが須賀さんの生きる芯のようなもので、別の言葉でいえば、それは神という存在だったのかなと、わたしには思えたのでした・・。



 ロングインタビューでは、プルーストにふれていらっしゃる箇所にも、興味を持ちました。

 大竹さんは「須賀さんの長い文章について」質問なさっているのですが、須賀さんのお答えは、「プルーストの文章が好きだったから」というお答えとのことでした。 

  須賀さんは、プルーストの文体を分析したスピッツァーという学者の論文を読まれ、たとえ悪文でも自分の文体というものを作っていいのだと思われたとのこと。

 プルーストは須賀さんにも影響を与えていたようです。

 この本は、久しぶりに読書の醍醐味を感じることができた一冊になったのですが、今後も繰り返し読む本になりそうです。

 







0 件のコメント:

コメントを投稿