2024年8月20日火曜日

読書・「若い藝術家の肖像」ジェイムズ・ジョイス著 丸谷才一訳 集英社文庫ヘリテージシリーズ

 


 明治の森のひまわり畑のひまわりです。8月15日に写したもので、満開を少し過ぎていたのですが、暑い中、まだまだ元気に咲いていてくれました!ひまわりの花は、いつもみるたびに、元気をもらえる花だと実感します。今年も元気に咲いてくれてありがとう!



 ジェイムズ・ジョイスの「若い藝術家の肖像」を、読み終えました。以前に購入し、積読本になっていたのですが、あの「ユリシーズ」に出てくる主人公のひとりのスティーブン・ディーダラスの若いころの話で、ジョイスの自叙伝にもなっているとのことで、興味を持ち読んでみたのでした。

 最初の出だしが、

・-・-・-・-・

「むかし、むかし、そのむかし、とても たのしい ころのこと、いっぴきの うしもうもうが、みちを やってきました。」

・-・-・-・-・               引用13p

 で始まるのですが、この童話のような書き出しは、とてもおもしろくユニークで、とくに「うしもうもう」は、忘れられない言葉になりそうです。それにしても、丸谷さんの翻訳は、すばらしいと感じました。

 主人公の成長にあわせて、次第に言葉も成長し、それらがすべて、スティーブンの意識の流れにそって語られているというのも読みどころかもしれません。



   スティーブンは、ジョイスですが、6歳で全寮制の名門校「グロンゴース・ウッド・コレッジ」に入学、その後は家庭の事情で授業料免除の名門校「ベルヴェディア校」に行き、大学は「ユニヴァーシティ・コレッジ・ダブリン」で学んでいます。ジョイスの父や先生は、何よりもまず、ジェントルマンになること、良いカトリック信者になることを望んでいたと書かれているのですが、それらが当時のジョイスが育ったアイルランド中流家庭の価値観だったようです。

 青年になったステイーブンは、藝術家になるという決心をするのですが、こんな風に書かれています。

・-・-・-・-・          

「ぼくは自分が信じていないものに仕えることをしない。家庭だろうと、祖国だろうと、教会だろうと。ぼくはできるだけ自由に、そしてできるだけ全体的に、人生のある様式で、それとも藝術のある様式で、自分を表現しようとするつもりだ。自分を守るためのたった一つの武器として、沈黙と流寓(りゅうぐう)とそれから狡智を使って。」

・-・-・-・-・              引用463p



 丸谷さんの翻訳の「沈黙と流寓(りゅうぐう)とそれから狡智を使って。」は、原文では、「silence,exile and cunning」とのこと。

 書かれた当時は100年前のアイルランド、ジョイスのような知的な青年が、祖国の、英国の属国としての政治問題、アイルランド語と英語の問題、そして何よりもむずかしい宗教問題などがあり、彼が祖国を離れて亡命し、藝術家を目指したのは、必然だったようにも感じました。

 



 この本は、プルーストの「失われた時を求めて」のように、訳注が多く、それらを読むだけでも知識を深くすることができ、興味深く読むことができたのですが、同じページに訳注があれば、より楽しめたのではと思います。

 2024年の夏の読書として、この積読本だったジョイスの「若い藝術家の肖像」を読んだのですが、ジョイスの面白さや深さを知る入門書として、良かったと思いました。    

 もう3冊あるジェイズ・ジョイスの積読本「ユリシーズ」も、これから読もうと思っています!!!



   

 

 

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