2024年11月30日土曜日

読書・「空の青さをみつめていると」谷川俊太郎・角川文庫


 今年の秋は庭の栗が、豊作でした。拾い集めておきましたら、翌日の朝には、小動物が食べたのでしょうか、食べかすが残っているだけでした。いまはもう11月も下旬、栗の季節は終わり、枯れ葉の季節になってしまいました。



  

 11月13日に詩人の谷川俊太郎さんが、92歳で旅立たれました。わたしが谷川さんの詩集を最初に手にしたのは、文庫本の「空の青さをみつめていると」でした。

 「空の青さをみつめていると」というタイトルに惹かれたからです。

 谷川さんは、「詩は、理由がなく胸がいっぱいになることがある。」と言われているのを、先日、TVの追悼番組の映像で見たのですが、わたしも同感でした。わたしの場合は、胸がきゅんとしてくるという表現がぴったりなのですが・・。

 また、谷川さんは「詩とは、キャッチコピーかもしれない。」とも言われていて、この言葉にも100%共感でした。



 以前にもこのブログで、谷川俊太郎さんの詩・六十二のソネットの中の「空の青さをみつめていると」ではじまる41を紹介させていただいているのですが、これは彼の詩の中で一番好きな詩です。

・-・-・-・-・

    41

空の青さをみつめていると

私に帰るところがあるような気がする

だが雲を通ってきた明るさは

もはや空へは帰ってゆかない


陽は絶えず豪華に捨てている

夜になっても私達は拾うのに忙しい

人はすべていやしい生まれなので

樹のように豊かに休むことがない


窓があふれたものを切りとっている

私は宇宙以外の部屋を欲しない

そのため私は人と不和になる


在(あ)ることは空間や時間を傷つけることだ

そして痛みがむしろ私を責める

私が去ると私の健康が戻ってくるだろう

・-・-・-・-・        引用66p~67p

  


 また、わたしが谷川さんの詩で、好きなところは、平易な言葉で書かれていて、ご自分の考えをおしつけないところです。

 たとえば「はる」というタイトルのこのような詩。

・-・-・-・-・

「はる」

                   谷川俊太郎

はなをこえて

しろいくもが

くもをこえて

ふかいそらが


はなをこえ

くもをこえ

そらをこえ

わたしはいつまでものぼってゆける


はるのひととき

わたしはかみさまと

しずかなはなしをした

・-・-・-・-・      引用26p



                                       初雪 11月30日


 読んでいると、こころが穏やかになってくるような気がしてきます・・。
 

 「空の青さをみつめていると 私に帰るところがありそうな気がしてくる・・・・」

   これからも青い空を見ると、いつもこのフレーズが浮かんできそうです・・。










2024年11月22日金曜日

読書・「あらし」シェイクスピア作 大場建治訳 シェイクスピア・コレクション研究社

 

 今年の秋は、ウリハダカエデの紅葉がすてきでした。みどりの葉から次第に黄色になり、赤やむらさきにまで、さまざまで微妙な色合いに染まっていくのを見ると、いつも自然のすばらしさを感じてしまいます。 



 先日、ギッシングの書いた「ヘンリ・ライクロフトの私記」を、再読していましたら、シェイクスピアの「あらし」のことが出ていました。

 主人公はシェイクスピアの作品の中で「あらし」ほど好きなものはなく、シェイクスピアを母国語で読めることがイギリスに生まれたことを感謝する理由のひとつにもなっている。そして、シェイクスピアとイギリスは、ただひとつのものにほかならないとまで、いっているのですが、これは作者のギッシングの本音なのだろうなあと、想像できました。

 ギッシングがこれほどまでに心酔しているシェイクスピアですが、私の場合「ロミオとジュリエット」など5,6冊読んだだけで、「あらし」はまだ未読でしたので、今回は研究社のシェイクスピア・コレクションの大場建治訳で読んでみたのでした。



 「あらし」は、シェイクスピアの最後の作品と言われており、この後、シェイクスピアは、ロンドンを引き払って故郷のストラットフォード・アポン・エイボンに帰ったとのこと。ストラットフォード・アポン・エイボンは、わたしにとっても二度訪ねたことがある懐かしい街です。シェクスピアの生家や、近所にある妻の実家も訪ねたことがあり、チューダー様式の木でできたがっしりとした建物には、独特のガラスの窓がはめ込まれていて、室内はチューダー様式の家具とともにきれいに保存されていたのを、思い出します。

  翻訳者の大場さんによれば、シェイクスピアの劇は、詩劇であるといわれており、セリフの大部分が詩になっているのだとか・・。

 ギッシングも「ヘンリ・ライクロフトの私記」の中で、「あらし」はシェイクスピアの劇作品の中でも「最も気高い瞑想的な言葉や、最後に到達した人生観、哲学の教訓の言葉、優雅な抒情詩、優艶な愛の言葉」は、彼の詩人としてのすばらしさを表していると、絶賛していました。



 「あらし」を読んでみてわたしは、シェイクスピアが登場人物のひとりキャリバンに言わせているこの三行のセリフにとても惹かれましたので、引用してみます。

・-・-・-・-・  

夢ん中で雲がぽっかと二つに割れて宝物が

落ちてきそうになって、だから目が覚めてから、

夢の続きが見たいって泣いたんだ。

・-・-・-・-・           引用 109p

 何度読んでみても、名セリフだと、感動します。

 翻訳者の大場さんも、この三行を訳しながら、涙をながされたとか・・。このセリフはやはり、あのキャリバンがいっているので、特に心にしみるのだと思います。

 やはりシェイクスピアは、ギッシングがいっていたように、偉大な詩人だったのだと再認識した読書でした。