2025年6月11日水曜日

読書・「ジェイムズ・ジョイス殺人事件」バーソロミュー・ギル 岡真知子訳 角川文庫

 

 

 6月に入りました。散歩していますと、5月の中頃に咲き始めたキンポーゲが、まだあちこちで咲いているのを見かけます。そよ風が吹くと長い茎の先のレモンイエローの花が揺れて金色に光り、バターカップという英語の名前が思い出されるのですが、雨に濡れた風情もすてきです。  



  「ジェイムズ・ジョイス殺人事件」を、読みました。この本は、最近わたしがジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」を読んだのを知った推理小説好きの友人からプレゼントしていただいたものです。推理小説を読むのは久しぶりでしたが、「ユリシーズ」を読んだばかりでしたので、おもしろく読むことができました。

 作者のバーソロミュー・ギルさんは、アイルランド系のアメリカ人で、ダブリンのトリニティ・カレッジで文学修士号を取得したとのこと。「ユリシーズ」はもちろん、ダブリンの街に住む人々や、アイルランドの国民性や文化の背景などにも通じており、ジョイス好きの読者にも興味深い文学ミステリーになっていると思いました。



  殺人事件の被害者は、ダブリンのトリニティ・カレッジの教授ケヴィン・コイル。世界的に有名なジェイムズ・ジョイスの研究家という設定で、ジョイスが使用していたというカンカン帽をオークションで買ったり、ジョイスと同様にトネリコのステッキなども持っているのですが、ブルームズディの6月16日(ユリシーズの主人公レオポルド・ブルームを記念する日)の翌朝に死体で発見されるのです。そして、その事件を解決するのが、容姿がジェイムズ・ジョイスとよく似ているピーター・マッガー警視正と部下なのでした。

 翻訳者の岡真知子さんによれば、「ユリシーズ」の舞台にもなっているマーテロ塔の「ジョイス博物館」には、この本「ジェイムズ・ジョイス殺人事件」も展示されているとのことですが、たしかにこの本を読めば、ダブリンに住む人々のことや、アイルランド気質などもわかり、よりおもしろくユリシーズの世界の余韻を楽しむことができると思いました。



 この本の最後は、「ユリシーズ」の本文の最後の部分(あのイエスがたくさん出てくる区切りのない長い文)からの引用の「イエス」で終わっているのですが、ジョイスの言葉遊びの世界の延長のようで、なぜかとても「粋」に感じました。

 作者の筆名のギルは、もしかしてアイルランドの詩人イェイツの詩「湖の島イニスフリー」にも出てくる「ギル」湖からとったのかな?と推理したのですが、どうなのでしょう・・。






 

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