もみじの紅葉も、すっかり散ってしまいました。倒木の上になごりのもみじ葉が散り敷き、冬のやさしい日差しがさしていました・・。
「ドナルド・キーンの東京下町日記」を、読みました。キーンさんの本は、以前から大分読んでいるのですが、特にこの本はエッセイとして、キーンさんの魅力を全部伝えているように感じました。
キーンさんは、すばらしい秀才でしたが、日本文学に目覚めたのは、ニューヨークでアーサー・ウエリイさんの「源氏物語」の名訳を、ただ安かったからという理由で、購入なさったのがきっかけだったということですから、人生って不思議で面白いです。
わたしが、キーンさんの著書の中で特に好きで忘れられないのは、「日本文学の歴史」1の古代・中世篇1の中の額田王(ぬかだのおおきみ)と大海皇子のお二人の歌の英訳です。
キーンさんの和歌の英訳は、とても簡潔で明快・・。
引用してみます。
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あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る
額田王
On your way to the fields
Of crimson-tinted lavender,
The royal preserve,
Will not the guardian notice
If you wave your sleeve at me?
紫のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻ゆゑに我(あれ)恋ひめやも
大海人皇子
If I had cruel thoughts
About you,radiant as
Lavender blossoms
Would I have fallen in love
with you, another man`s wife?
引用「日本文学の歴史」1 古代中世篇1 ドナルド・キーン著 土屋政雄訳 中央公論社
170p~171p
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この万葉集の有名な2つの歌は、668年に天智天皇が催した狩りの場で、歌われたとのこと。(当時、額田王は、天智天皇の妻でした)
額田王のかっての夫だった皇太子大海人皇子が、あまりにも袖を振るので、野守に気づかれてしまうではありませんかと詠んだ額田王の歌にたいして
大海人皇子が答えた歌は、いまは兄の妻となっている額田王に、人目につくということなど気にせずに、ただご自分の好きだという気持ちだけを伝えているのです・・。
「Would I have fallen in love with you, another man`s wife?」というように・・。
また、キーンさんは、
「あかねさす紫野」を、「crimson-tinted lavender」 深い紅色に染まったラベンダー・・
そして、
「紫のにおえる」を、 「radiant as Lavender blossoms」 ラベンダーの花のようにひかり輝いて・・
と、野草の「ムラサキ」を「ラベンダー」と訳されているのは、詩としての雰囲気は十分に伝わっていて、すてきな仕上がりになっていると思いました。
※(調べてみましたら、ムラサキは、ムラサキ科ムラサキ属の野草で、白い小さな花が咲き、根は太く紫色で昔から、染料や薬用とされたとのこと。)
万葉集のこの2つの歌を、キーンさんの英訳で読むことができたのは、わたしにとって、とても新鮮な経験でした。
「ドナルド・キーンの東京下町日記」には、日本文学を世界に広めてくださった「日本文学の伝道者」だったキーンさんの人生やお人柄が感じられ、日本人になられた後の「晩年の今が一番幸せで、わたしの人生は幸運だった」と書かれていたお言葉に、こちらまでほのぼのとさせていただいたのでした・・。
日本文学を世界に広めてくださったキーンさんの功績に感謝した読書でした。
「日本文学の歴史」1 古代中世篇1 ドナルド・キーン著 土屋政雄訳 中央公論社
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