いつも夏の終わりのころになると、ヤマザクラのまるで紅葉のようにきれいな葉が、散歩道に落ちているのを見かけます。でも、これは、紅葉ではなく病葉(わくらば)とのことですが、 あまりにもすてきなので、見惚れてしまいました。
それも、こだわりの全部正字旧仮名遣いを用いて・・。
わたしは、塚本さんの本はいつもランダムにそのときに、最初に開いたページを読むのですが、この本はまさにどこを開いても、言葉の星が、それぞれまぶしく輝いていて宇宙に散らばっているようで見惚れてしまいます。
まず、最初の「展翅板」(てんしばん)では、全部「蝶」づくし。「蝶」という言葉が出てくる、短歌、詩、物語の中の言葉、などから塚本さんの美意識にかなうものを選りすぐって花束にしています。
☆後鳥羽院の歌「うすく濃き苑の胡蝶はたはぶれてかすめる空に飛びまがふかな」からはじまり、 ☆安西冬衛「落ちた蝶」 ☆ジェラール・ド・ネルヴァールの「蝶」中村眞一郎譯 ☆「堤中納言物語」「蟲めづる姫君」の中に出てくる蝶 ☆内藤丈草の俳句「大原や蝶の出てまふ朧月」 ☆「蝶の繪] 久生十蘭
というように、「蝶」づくしなのですが、塚本さんの想像力は変幻自在で、後鳥羽院の歌から言葉を求めて蝶のようにあちこちに飛ぶのでした。
ちなみに「展翅版」の「展翅」(てんし)とは、標本にするために昆虫のはねを広げて固定することだそうです。
塚本さんは、本の後ろの「《跋》玲瓏麗句館由来」でこの詞華集についてこのようなことを言われています。
1967年春ころ、悪の華の「旅への誘ひ」を長歌にみたて、反歌として「新古今和歌集」の後京極良経の「志賀の花園」を配し、その至妙のアンサンブルにひとり酩酊なさっていたそうですから、さすが塚本さんですよね。
そこからはじまり、古今東西の詩歌の名作をひとつの主題のもとに選び、その組み合わせかたから、醸し出される不思議な味わいを楽しんでこられたとのこと。
しかし、これらはまだほんの前菜で、聖書や古事記、アンチロマン,SFなどからまでその美味な部分だけを集め、メインデッシュに再編集なさったとか。なんだか溜息まで出てきました。
この本は、塚本邦雄さんの美意識にかなったものだけを選りすぐった詞華集なので、彼は何の目的もなく旅に出るとしたら、この一冊だけ持っていくとのこと。もしかすると彼もかなり気にいられていたのだと、確信しました。
この本はかなりマイナーで、究極の彼の趣味の私家版のような詞華集ですが、どのページを開いても、言葉の星がきらめいていて、そのまぶしさに魅了される本でした。
0 件のコメント:
コメントを投稿