9月に入り、散歩道でツリガネニンジンが風に揺れて咲いているのを、見かけるようになりました。今年の夏は、昨年よりも酷暑とのことですが、ツリガネニンジンのようなかわいらしい花を見ると、すずやかな風鈴の音色がひびいてくるようで、ほっとします。
野崎歓さんの書かれた「翻訳はおわらない」を読みました。この本は、友人からのプレゼントで、著者の野崎さんは、先月の8月にNHKのTV番組【「100分de名著」・「人間の大地」サン=テグジュペリ】にも出演なさっており、穏やかに話されるお姿に好感を持ったばかりでしたので、興味深く読むことができました。
この本でわたしが特に興味深く感じたのは、「シルヴィ」という本を書いて、プルーストにも影響を与えたジェラール・ド・ネルヴァルが、翻訳家として紹介されていることでした。ネルヴァルは19歳でゲーテの「ファウスト」を翻訳し、その本は21世紀のいまでもフランスでは文庫版で広く読まれているとのこと。
「シルヴイ」を本箱から探して開いてみると、はしがきにやはりネルヴァルは、ゲーテの「ファウスト」第一部を翻訳して、ゲーテの激賞するところとなり一躍有名になったと、書いてありました。野崎さんは、「シルヴイ」も入っているネルヴァルの作品集「火の娘たち」を翻訳なさっているとのことなので、出版されるのが楽しみになりました。何といってもジェラール・ド・ネルヴァルの書いた「シルヴイ」は、あのプルーストに影響を与えた作品なのですから・・。
また、ゲーテの「ファウスト」は、森鴎外も翻訳しているという話から、鴎外の孫の山田ジャック(ジャックとは難しい漢字一文字です。)さんのお話になり、何と野崎さんは、仏文の学生時代にジャック先生の生徒だったとか。以前に読んだ森茉莉さんのエッセイにご子息のジャックさんのお話が出てきたことがあるので、お名前は知っていたのですが、彼は仏文の先生だったのですね・・。ジャック先生は、フローベールの「ボヴァリー夫人」や「感情教育」なども翻訳なさっており、翻訳家や仏文の先生としてのジャック先生のことを敬愛なさってなさっていたことが、伺えたのでした・・。
本の中ほどに、野崎さんが通訳なさった小説家のナンシー・ヒューストンさんの講演でのこんな言葉が紹介されていました。
「翻訳は、裏切りではないというだけではありません。それは人類にとっての希望なのです」
引用28p
野崎さんは、これ以上の翻訳論はないと書かれていますので、この言葉は彼の翻訳人生の指針になられたのではと、想像できました。
わたしの場合、翻訳といえばいつもプルーストの「失われた時を求めて」を翻訳なさった井上究一郎先生、鈴木道彦先生、吉川一義先生、そして、高遠弘美先生など4人の先生方のことを考えてしまうのですが、わたしに「読書の喜び」を与えてくださった先生方の翻訳には、いつも感謝しております。
野崎歓さんの今後の翻訳に期待しつつ、本を閉じました・・・。
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