保苅さんは、プルーストの研究をなさっていた方ですが、大学での長い教職生活の後、パリに移り住まわれた2008年頃に、この本を書き始められたとのことです。
リルケは若い頃にパリに魅せられた人間は、生涯その魔力から逃れられないと言ったそうですが、それは本当だったと保苅さんは、本の最初に書かれています。
若いころにパリに留学なさったという保苅さんのこのようなお気持ちは、パリを何度か訪ね魅力を感じていたわたしにとっても、とても共感できる思いがしました。
そのパリに住みながら、彼の長年の研究テーマでもあったプルーストの「失われた時を求めて」の中から、彼の読書の喜びの部分をとりあげて、書いていらっしゃるのですから、すてきな本になったのは、自明のことかもしれません。
保苅さんのプルーストの「失われた時を求めて」を読む喜びが、すみずみまで感じられ、わたしも彼といっしょに、すてきな箇所の再読という楽しみをわけていただきました。
また、保苅さんは、彼の琴線にふれたプルーストの文章を、ほかの詩人や文学者などの芸術家や、芸術家の作品、そしてプルーストの友人、知人などからの手紙などからの引用も駆使して説明なさっているのですが、それも読みごたえがありました。
また、保苅さんはこんなことも言われていますので引用してみます。
【本を読むということに知的な理解が必要なことはいうまでもないことであっても、それよりもっと必要で、豊かなものはこの喜びの感情なのである。】引用12p
わたしがプルーストから学んだのもこれと同じで、本を読むという喜びでした。最初に、プルーストの「失われた時を求めて」を、井上究一郎さんの翻訳で読み終えたときの読書の喜びは、いまでもはっきりと覚えています。
あれからもう、20年以上もたっているのですが・・・。
そしてそれ以後は、鈴木道彦さん、そして吉川一義さんと、違う方の翻訳でプルーストを全巻読むという喜びでした。
この本は、プルーストの「失われた時を求めて」の名場面を読む喜びを再現してくれる大事な1冊になりました。
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