知人からサクランボをいただきました。
サクランボは、洗って小皿に盛ると、ルビーのようで
きれいだなあと、いつもしばらく見つめてしまいます。
サクランボが出てきます。
主人公の恋人のアルベルチーヌが突然事故で亡くなった後、
恋人と過ごした昔の出来事が、何事につけても思い出される
という切ない場面があるのですが、そこにこのサクランボが
出てくるのです。
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私は溜息をつき、それをフランソワーズにどう説明したらよいか
分からなくて、「ああ!喉が渇く」と言う。フランソワーズは部屋
から出てゆき、また戻ってきたが、そのとき、たえず周囲の暗がり
のなかにちらついている目に見えない無数の思い出のひとつが痛まし
くもどっと押し寄せてきて、わたしはあわてて顔をそむけた。彼女が
りんご酒(シードル)と、サクランボを持ってきたのが目に入ったのだ。
そのりんご酒とサクランボは、バルベックで農園レストランのボーイが
私たちの車のところまで持ってきてくれたものと同じで、以前なら
そうしたものを見ると、私は焼けつくような暑い日に薄暗い食堂の
なかにさしこむ虹のような光と、完全に一体化したことだろう。
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引用「失われた時を求めて」11マルセル・プルースト
「逃げ去る女」集英社文庫ヘリテージシリーズ
鈴木道彦訳
この部分を読んだときに、わたしにとってサクランボは、
「プルーストのサクランボ」になり、サクランボを見る度に
主人公の切ない気持ちが、蘇ってくるようになりました。
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