いま、あちこちで、キンポウゲが、花びらを金色に輝かせて咲いています。
プルーストの書いた「失われた時を求めて」にキンポウゲの花が出てきますが、こんな風に書かれています。
引用
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それが私を否応なく夢想にいざなうのは、コンブレーという名前のなかに、現在の小さな町だけでなく、それと異なる都市がつけ加わり、キンポウゲの下になかば隠れて理解不能となった昔の相貌が私の想いをとらえるからだ。このあたりにキンポウゲが非常に多かったのは、それが草のうえを遊び場として選んだからで、ひとり離れていたり、対になったり、群れになったりしている。卵の黄身のように黄色い花を見ると歓ばしい気分になるが、さりとて試食する気にはなりえず、その歓びが黄金色の表面だけに蓄えられて無用の美が生じるほど強烈なものとなるからこそ、私にはあれほど輝いて見えるのだ。幼いころの私は、フランスのおとぎ話の「王子さま」のように美しいこの名前をまだ完全に綴ることはできなかったけれど、すでに曳舟の小道からキンポウゲに両腕を差し出したものだ。もしかすると何世紀も前にアジアから渡来したもので、無国籍者として永遠に村に住みつき、つつましい眺望に満足し、太陽と水辺を愛し、つねに小さくみえる駅舎を眺め、それでもわが国の古い油彩画のように庶民的な飾り気のなさを発揮して、東方の輝かしい詩情をいまだ保ちつづけているのである。
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引用 「失われた時を求めて」1スワン家のほうへⅠ プルースト作 吉川一義訳
岩波文庫 362p
キンポウゲは、この本を翻訳なさった吉川一義さんの訳注によれば、「十字軍兵士が、まずはオリエントからオランダに持ち帰ったとされる」と書かれていますので、オリエントからオランダに持ち込まれ、その後フランスでも咲くことになったのでしょうね。
英国でもキンポウゲを見たことがありますので、ヨーロッパ中に広まったのでしょうか。プルーストがこの花に東方の輝かしい詩情を感じたというのも頷けます。
それにしても、キンポウゲの花に、これほどの言葉をつくして述べることができるプルーストの感性や思い入れには、読むたびに驚かされてしまいます。
5月の風に揺れて咲いているキンポウゲは、わたしにとっては、プルーストの花として特別の存在の花になりました。
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