2015年1月9日金曜日

みかんの美




詩人の高村光太郎は、
冬が好きで、
冬の詩を、たくさん書いています。

わたしは、冬の詩も好きなのですが、
みかんが出てくる
「手紙に添えて」
というこの詩も、大好きです。


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「手紙に添えて」
              高村光太郎

どうして蜜柑は知らぬまに蜜柑なのでせう

どうして蜜柑の実がひっそりとつつましく

中にかはいい部屋を揃へてゐるのでせう


どうして蜜柑は葡萄でなく

葡萄は蜜柑でないのでせう

世界は不思議に満ちた精密機械の仕事場

あなたの足は未見の美を踏まずには歩けません

何にも生きる意味の無い時でさへ

この美はあなたを引きとめるでせう

たった一度何かを新しく見てください

あなたの心に美がのりうつると

あなたの眼は時間の裏空間の外をも見ます


どんなに切なく辛く悲しい日にも

この美はあなたの味方になります

仮りの身がしんじつの身に変ります

チルチルはダイヤモンドを廻します

あなたの内部のボタンをちょっと押して

もう一度その蜜柑をよく見て下さい

                  (一九三八・一)

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                        引用「高村光太郎詩集」白鳳社130p・131p 





高村光太郎はこの詩を
1938年の1月に書いたようですが、少しも
古くなく、読むたびにわたしにはいつも新鮮に感じられます。

彼は詩人ですが、彫刻家でもあり「緑の太陽」という
芸術論も書いているアーティストなのだというのが
よくわかる詩です。

こころのボタンをおして
蜜柑をじっくりと見てみたくなります。


               


                                      「高村光太郎詩集」浅野晃編 白鳳社

































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