詩人の高村光太郎は、
冬が好きで、
冬の詩を、たくさん書いています。
わたしは、冬の詩も好きなのですが、
みかんが出てくる
「手紙に添えて」
というこの詩も、大好きです。
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「手紙に添えて」
高村光太郎
どうして蜜柑は知らぬまに蜜柑なのでせう
どうして蜜柑の実がひっそりとつつましく
中にかはいい部屋を揃へてゐるのでせう
どうして蜜柑は葡萄でなく
葡萄は蜜柑でないのでせう
世界は不思議に満ちた精密機械の仕事場
あなたの足は未見の美を踏まずには歩けません
何にも生きる意味の無い時でさへ
この美はあなたを引きとめるでせう
たった一度何かを新しく見てください
あなたの心に美がのりうつると
あなたの眼は時間の裏空間の外をも見ます
どんなに切なく辛く悲しい日にも
この美はあなたの味方になります
仮りの身がしんじつの身に変ります
チルチルはダイヤモンドを廻します
あなたの内部のボタンをちょっと押して
もう一度その蜜柑をよく見て下さい
(一九三八・一)
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引用「高村光太郎詩集」白鳳社130p・131p
高村光太郎はこの詩を
1938年の1月に書いたようですが、少しも
古くなく、読むたびにわたしにはいつも新鮮に感じられます。
彼は詩人ですが、彫刻家でもあり「緑の太陽」という
芸術論も書いているアーティストなのだというのが
よくわかる詩です。
こころのボタンをおして
蜜柑をじっくりと見てみたくなります。
「高村光太郎詩集」浅野晃編 白鳳社
、
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