8月の後半から、我が家の庭に「レンゲショウマ」が、咲きはじめました。「レンゲショウマ」は、わたしがいちばん好きな花と言ったのを覚えていらした知人から、数年前にいただいたものです。
「レンゲショウマ」は、日本特産の一属一種の気品ある花で、この花を見ると、わたしはいつも源氏物語に出てくる「紫の上」を、思い出してしまいます。昨年は咲かなかったので、今年はためいきをつきながら、見惚れています・・。
この砂時計のような形になっているという考えは、E・M・フォースターが、アナトール・フランスの「舞姫タイス」を砂時計の形をした小説といっているのをふまえて、丸谷さんは源氏物語のこの挿話も同じだと考えられたとのこと。
次に、源氏物語の現代性はそれだけではなく、「夢の使用の巧みさ」もあるとして、柏木の夢を紹介なさっています。
「柏木は女三宮と関係したすぐあとに、猫の夢を見るのですが、女三宮が飼っていた猫が御簾のすそをあげたために、柏木が彼女の姿を見てしまい、恋するようになったのでしたが、猫は当時、夢占いで妊娠を意味していたとか・・。」
また、夢だけではなく源氏物語は、「イメージの使用が優れた手法にもなっている」として、プルーストの「失われた時を求めて」の中の「囚われの女」のアルベルチーヌの眠りについてもふれられています。「鮮やかで精細な比喩」だとして。
さらに、源氏物語では、登場人物の自作の和歌によって本文をいっそう鮮やかにイメージしたり、古歌の引用によって、イメージを華麗にしたりしているが、もしプルーストが読んでいたら、羨望だったのかもとも・・。
最後に、わたしがこの丸谷さんの評論で特に心に残ったのは、この3つでした。
それは、
1・源氏物語の現代性を、独自の視点から論じられていること。
2・日本では、中世の歌人たちや連歌師が、絵画的で音楽的な詩の方法を「源氏物語」のイメージの匂やかな扱い方により学んだこと。
3・そして、フランス象徴詩の文学風土からプルーストやジェイムズ・ジョイスのあたらしい小説が生まれたということ・・。
丸谷さんのこの源氏物語の文芸評論は、ご専門の英語圏の文学のほかにも、フランスの文学圏の文学風土や、我が国の中世の和歌や連歌など、自在に時間や空間を越えて論じられているのがユニークで、興味深くおもしろく読むことができました。
最後に「梨のつぶて」という本の命名も、丸谷さんらしい言葉遊びで、さすがにジョイス仕込みだと思ったのでした・・。
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