2026年6月15日月曜日

読書・「プルーストによる人生改善法」アラン・ド・ボトン著・畔柳和代訳 白水社 (プルーストするとは・・)

 

 雨の日が多いこの季節になりますと、コアジサイのさわやかな香りが漂ってくるようになりました。 コアジサイに香りがあるのを知ったのは数年前ですが、梅雨の季節のうれしい発見でした。 花の色も薄水色でさわやか・・。 まるで、サイダーの泡がプチプチと、はじけたようで見ていると気分も明るくなりそうです・・。



 アラン・ド・ボトンさんが書かれた「プルーストによる人生改善法」を、再読しました。 最初に読んだのは、2018年の1月29日で、このブログにも感想をアップしています。

 今回、おもしろいと思ったのは、第六章の「よき友になる方法」で、その中の「プルーストする」という動詞についての著者の考察がユニークなのでした。

 著者によれば、「プルーストする」とは、プルーストの友人たちが、仲間内で創造した言葉のことで、「プルーストが良き友人を得るために、相手に高価なプレゼントや、お世辞の誉め言葉を浴びせていた」という行為を指していたようです・・。 

 その典型的な例として、ロール・エイマンという有名な高級娼婦、そしてもうひとりは、詩人で小説家のアンナ・ド・ノアイユをあげているのですが、もちろん彼女たちは「プルーストにプルーストされ」、プルーストの友人になったのでした。 

  わたしは、このプルーストするという行為の裏には、彼女たちとの交流を通じてあたたかい愛情や親切心などの、人間としての「ぬくもり」が欲しかったというプルーストの切実な気持ちがよく表れているようにも思ったのですが・・。 

 アランさんは、この行為を分析し、プルーストはあまりにも繊細に「プルーストした人生」を生きたので、その解毒剤として、「失われた時を求めて」を、書いたのではとの結論で、パロディとしてしめくくっていることに、クスリとしたのでした。



 そもそも、「失われた時を求めて」のような小説を書くプルーストが、人間観察や心理分析に長けていたのは自明て、「友情をあざ笑う人々は・・・・世界で一番立派な友人になりうる」。 と、言ったとか・・。

 わたしは、ラ・ロシュフコーの書いた「箴言集」を、思い出してしまったのですが、フランス文学とは、このようなものだという白眉のような「失われた時を求めて」は、アランさんのような現代の哲学者にとっても、料理するのには、おもしろい素材がいっぱいある作品なのだと実感した読書でした。 



 

2026年6月5日金曜日

読書・「『失われた時を求めて』への招待」吉川一義著 岩波新書 (吉川一義さんのプルースト研究の清華の1冊・・)

 

 6月に入り、散歩道や庭などに、ニガナが次々に咲くようになりました。ニガナの花びらは5枚ですが、花びらが7~12枚もあるのがハナニガナです。花びらが白いシロバナニガナもときどき見かけます。茎を切ると、粘り気のある乳液がでてくるのですが、この乳液をなめると苦いので、この名前が付いたとのこと。ニガナはゆでると少し苦いのですが、食べられるそうです・・。

 茎は細くて長いので、少しの微風にもゆらゆらと揺れ、蝶が舞っているようにも見える、愛おしい花です。

 



  「『失われた時を求めて』への招待」を、再読しました・・。

 著者の吉川一義さんは、「失われた時を求めて」の翻訳者でもありますが、わたしはこの本を、立教大学で開かれていた「新訳でプルーストを読む」というセミナーに参加して、全巻読了したというなつかしい思い出があります。

 最後の14巻が発行されたのは、2019年の11月15日で、わたしが最後の14巻を読了したのは、2019年の11月29日でした。吉川さんは、ほぼ10年かけて翻訳なさったとのことですが、彼の講演をお聞きしたときに、「毎日、翻訳のため机に向かうのが、日課だった」とおっしゃっていた真摯なお姿が、とても印象に残っています。

 吉川一義さんの「失われた時を求めて」の岩波文庫版の翻訳は、端正で正確、図版も多く、注が、同じページ内にあるのも読みやすく、最後の14巻には、人名や地名、作品名が、網羅されて載っているのも、好感を持ちました・・。



 吉川一義さんは、「プルースト美術館」や「プルーストの世界を読む」「プルーストと絵画」などの著書もあるプルースト研究者ですが、この「『失われた時を求めて』への招待」という本は、まさに彼の研究の清華であるプルーストの本の核心を、書かれているように思いました・・。

 本の帯には、

・-・-・-・

「ついに発見された人生・・・それが文学である」-プルースト

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と、書かれているのですが、この言葉の意味が、くわしく本文で説明されています。

 彼は、あとがきで「プルーストの小説の大きな魅力は、登場人物たちの実に滑稽な言動にあるので、読者がみずから発見して楽しんでほしい」とも、書かれているのですが、わたしも楽しんで読んでいますから、共感でした。

 本の最後に、「プルーストとその作品に関する近年の主要な文献」がくわしく載っているのも、好感を持ちました。わたしのようなプルーストファンにとっては、ここを読むだけでも十分に楽しめますので・・。

 吉川一義さんの長年のプルースト研究の精華がよくわかる本で、このような本を書いていただいたことに、感謝した読書でした・・。

 この本は、2021年6月に第1刷が発行されています。