2026年8月12日水曜日

読書・「王朝百首」塚本邦雄 講談社文芸文庫     (「花筐」としての本・・・)

 


  オカトラノオという面白い名前の花が咲いています。虎の尾に似ているから名付けられたとのことですが、かわいらしい小さな白い5弁の花が星を集めたようにいっぱいついていて、見るたびにいつも、舞妓さんの「はなかんざし」にしたら、似合うのではないかしらと、思ってしまうのです・・。




  「花筐」という美しい言葉があります。

 花などを入れる籠のことですが、うつくしい和歌を集めて入れた花かごと考えますと、この本はまさに、「花筐」だと思うのです・・。

 塚本邦雄さんが書かれた「王朝百首」は、本箱にある彼の14冊ある本の中では、いちばん多く読んでいる本かもしれません。

 この本の解説を書かれている橋本治さんの文は、何度読み返しても、読み返すたびにいつも、感服してしまうのですが、橋本治さんは、この「王朝百首」は、日本国民必読の書と、断定なさっているのが、彼らしいなあと思ってしまいます・・。

 橋本さんは、もう亡くなられていますが、1974年の12月、26歳のときに、はじめて書店で函入りのこの本を函からだして、ご覧になられ、そのときに、そこにはただ「美しいもの」が、並んでいたとのご感想なのでした・・。



 この「王朝百首」を書かれた塚本邦雄さんは、前衛歌人ですが、「小倉百人一首」に秀歌はないと断定なさり、王朝の和歌の中から、彼の審美眼で選び抜かれた百首を、掲載なさっていて、見事です。

 塚本さんによれば、王朝の和歌は、日本の言葉の「さはやかさ」「あてやかさ」であり、それを現代によみがえらせたいという趣旨でこの「王朝百首」という詞華集を編まれたとのことです・・。


わたしが一番好きな歌人の式子内親王の和歌からは、2首選ばれています。

  「盃に春のなみだをそそぎけるむかしに似たる旅のまどゐに」     式子内親王

  「ほととぎすそのかみ山のたびまくらほのかたらひし空ぞ忘れぬ」   式子内親王

定家からは、

  「移香(うつりが)の身にしむばかりちぎるとて扇の風の行方たづねむ」  藤原定家

そして、塚本さんの最愛の歌人とおっしゃる、藤原良経の和歌からはこの2首です。

  「あすよりは志賀の花園まれにだにたれかはとはむ春のふるさと」    藤原良経

  「さびしさや思ひ弱ると月見ればこころの底ぞ秋深くなる」       藤原良経


 美しい和歌を集めて入れた花かごである「花筐」という言葉がぴったりの本だと改めて思ったのでした・・。