中勘助さんの書かれた「銀の匙」は、
わたしの好きな本の一冊です。
銀の匙は、読むたびに、新しい発見があり、
毎回うれしくなる読書をすることができるのですが、
今回もこんな発見がありました。
「鯛」についての描写ですが、
清少納言の書いた枕草子のような
歯切れの良い文体になっています.。
引用してみました。
こんな文です。
引用
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「鯛は見た目が美しく、頭に七つ道具のあるのも、恵比寿様が
かかえてるのもうれしい。目玉がうまい。うわつらはぽくぽくしながら
しんは柔靭(じゅうじん)でいくら噛んでも噛みきれない。吐き出すと
半透明の玉がかちりと皿に落ちる。歯の白いのもよい。」
ー・-・-・-・-・-・ー・-・-・-・
本当に歯切れの良い文ですよね。
著者の中さんは幼少のころ、
虚弱児で食も細かったということですが、
そんな彼をつきっきりで我が子のように
育ててくれた伯母さんがいました。
その伯母さんを、16歳になった中さんが
訪ねるシーンがあります。
伯母さんは、最初は中さんとわからなかったのですが、
わかった瞬間に涙をほろほろとこぼし、名前を呼びながら
おびんずる様のように、頭や肩をなでまわしたそうです。
そして、うれしさのあまり近所の人を連れてきて、
中さんを紹介したり、魚屋へ行って、
その店にあった鰈を二十幾匹も全部買ってきて煮魚を作り、
お腹いっぱい食べるようにと勧めたということです。
太宰治の、「津軽」にも、子守りだったタケを訪ねるシーンが
あるのですが、その場面を思い出してしまいました。
叔母さんとタケ、それぞれ
愛情の表現方法は違っていても、
気持ちが溢れています。
中さんの文を読んでいると、いつも懐かしいような思いに
とらわれ、やさしい気持ちになってくる稀有な本です。
この作品を最初に評価したのは、夏目漱石だったという
ことです。
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