森茉莉さんのエッセイを繰り返し読むように
なったのは、「父の帽子」を、読んでからでした。
とくにその中の、「幼い日々」は、文章もうっとりするほど
すばらしいのですが、こんな幼児期を過ごした人が
いたというのは、読むわたしまでを幸せな気分に
させてくれました。
「幼い日々」の引用です。
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毎日、毎日、新しく始まる幸せな日々だった。千駄木の家の春、夏、秋、そうして冬。
温かい土の上に、桃色の椿の散り重なる春も、岐阜提灯が庭の闇に、薄い光りを放ってい
た夏も、金色の銀杏の葉が、カサカサと透き通った空に鳴り、やがて玄関の石畳を、温か
な黄色で埋めた秋も、そうして、冷たい雨が降り、紅葉の枯葉が、庭の隅、垣根の際に吹
きよせられて色褪せ、土に塗れるとやって来る冬。白い空気と、寂しい木立に囲まれ、障
子を閉め切った部屋の中に、炭火の匂いの漂っていた冬も、私は帰るだろう父を待ち、母
を恋して暮した。
長い、長い、幸福な日々だった。
ー・-・-・-・-・-・
「父の帽子」森茉莉著 講談社文芸文庫 55p、56p
その後、「貧乏サヴァラン」「贅沢貧乏」「私の美の世界」
「魔利のひとりごと」「ベスト・オブ・ドッキリチャンネル」と読み進み、
また「父の帽子」に戻ります。
「甘い蜜の部屋」「薔薇くい姫 枯葉の寝床」は、読んだというだけで
繰り返し読む本には入っていません。
森茉莉の本の中毒になっている知人がいますが、やはり彼女も
本好きでそのことを知ったときには、お互いに笑ってしまいました。
やっぱり森茉莉かぶれがいるんだと・・。
森茉莉さんの本たち
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