マルセル・プルーストの書いた「失われた時を求めて」には、いろんな種類の花が出てくるのですが、きょうは、「キンポウゲ」が出てくる箇所を、見つけました。
集英社文庫ヘリテージシリーズ・鈴木道彦訳「失われた時を求めてI」の356pからの
引用です。
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「あたりにはおびただしい数のキンポウゲがあって、彼らは草の上で戯れるために選んだこの場所で、ひとり離れていたり、対になったり、群れをなしたりしていた。卵の黄身のように真っ黄色でありながら、それを見るという快楽が味わってみようという気持ちの方にそらされることなどいっさいないだけに、キンポウゲはそれだけいっそう輝いているように思われたから、私はひたすら彼らの与える視覚の快楽をその黄金色の表面に積み上げてゆき、ついにそれは無用な美を作りあげるほどに強力になった。そしてこれはごく幼いころからそうだった。そのころ私は、曳船の小径からキンポウゲに向かって手をさし出していたけれども、フランスのお伽噺の王子のように可愛らしいこのキンポウゲという名も、まだ完全に綴れはしなかったのだ。この花たちは、たぶん何世紀も前にアジアから渡ってきて、永久に
この村に住みつき、ささやかな地平線に満足し、太陽と水のほとりを愛し、汽車の駅のつつましい眺めをいつまでも見すてることなく、しかもその庶民的な単純さのなかに、まるでフランスのある種の古い油絵のように、東方(オリアン)の詩的輝きをこめているのだった。」
・-・-・-・-・-・引用終わり
プルーストは、キンポウゲについてもこれだけの散文を書いていますので、すごいの一言です。
ロンドン郊外の運河のほとりの野原にも、この花がいっぱい咲いていたのを覚えていますが、英語では、きらきらと金色に光る花びらから「バターカップ」と、呼ばれていました。
プルーストがフランスのお伽噺の王子のようにかわいらしい名前と言ったのは、本には出てきませんが
「boutons d`or]
で、「金のつぼみ」という意味のようです。
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